東京大学との連携協定に基づく成果 第三弾を発表―錠剤の飲みやすさに関する評価方法を新たに開発―
株式会社東洋新薬(本社:福岡県福岡市、本部:佐賀県鳥栖市、代表取締役社長:服部利光)は、東京大学大学院情報理工学系研究科 下山勲教授、産業技術総合研究所集積マイクロシステム研究センター 竹井裕介研究員と共同でヒトを介さない錠剤の飲みやすさの新たな評価方法を開発し、日本農芸化学会2019年度大会において発表しました。
【演題】錠剤の嚥下性評価のためのヒトを介さない評価手法の検討
【講演者】
根岸辰成1)、竹井裕介2)、森川琢海1)、阪田哲郎1)、山口和也1)、下山勲3)
1)株式会社東洋新薬、2)産業技術総合研究所、3)東京大学
■研究の背景
錠剤の健康食品は市場全体の約3割を占めると言われています。配合素材は多岐に渡るものの、錠剤が大きく、かつ1回の摂取粒数が多い商品もあり、負担軽減の観点から飲みやすい錠剤の開発が期待されています。しかしながら、ヒトを介した飲みやすさの評価では被験者への負担が発生するため、より簡便な評価方法の開発が求められています。
■研究のポイント
当社は2016年10月に東京大学と連携協定を締結し、健康食品、化粧品等の新規素材開発及び製剤技術開発とその実用化に向けた共同研究の推進に取り組んできました。
今回、当社と東京大学大学院情報理工学系研究科 下山勲教授及び産業技術総合研究所集積マイクロシステム研究センター 竹井裕介研究員は、ヒトを介さない錠剤の飲みやすさの評価方法を開発し、日本農芸化学会2019年度大会(2019年3月24日(日)~27日(水)、東京農業大学世田谷キャンパス)において発表しました。これまでにもヒトを被験者としない錠剤の飲みやすさの評価は報告されていますが、今回新たな試みとして錠剤の各形状(錠径・曲率半径・錠厚)〔注①〕が飲みやすさに与える影響や、ヒトを介した評価との結果を比較し、評価方法の妥当性を検証しました。
評価方法の開発からデータ解析に至るまで、下山教授の測定センサに関する知見や竹井研究員の嚥下(飲み込むこと)に関する知識と経験をお借りし、本研究を実施することができました。
■発表骨子
ヒトを被験者とせずに錠剤の飲みやすさを評価するために、錠剤を飲み込む際に喉で感じる抵抗や違和感を模擬したモデル試験を開発しました。モデル試験においては、せん断応力〔注②〕つまり、錠剤と底面に敷いた樹脂製のシートの間に発生する滑り摩擦力を測定対象としました。続いて、その評価方法を用いて、≪錠径9mm/曲率半径7.5mm/錠厚4.5mm≫の錠剤を基準サイズの錠剤とし、基準と比べ各形状の異なる錠剤及びイージータブ®〔注③;当社開発品〕における、せん断応力を測定しました。その結果、基準となる錠剤に比べて曲率半径大、錠厚大の錠剤においてせん断応力が増加することを確認しました。また、錠厚大の錠剤においては同サイズの通常錠剤に比べてイージータブ®のせん断応力が低減することも確認しました。
さらに、ヒトを介した錠剤の飲みやすさ評価との結果を比較するために、健常者6名を対象にVAS〔注④〕による官能評価〔注⑤〕を行いました。その結果、基準となる錠剤に比べて、曲率半径大、錠厚大の錠剤は飲みにくいことが確認されました。また、イージータブ®が同サイズの通常錠剤に比べて飲みやすいことも確認されました。
以上の結果から、錠剤表面で発生するせん断応力を測定することで、ヒトを被験者とせずに飲みやすさを評価することが可能であると考えられました。
東京大学との連携協定では、東京大学産学協創推進本部とともに研究テーマの探索から取り組み、いくつかの共同研究を進めてきましたが、今回の発表はその一環となります。
東洋新薬は今後も大学や自治体との連携協定の取組を通じて、健康食品、化粧品等の新たな市場を創造し、社会に貢献して参ります。
〔注①〕 錠径・曲率半径・錠厚
錠剤両面はコンタクトレンズのような形をしており、球の一部を切り取った形状となっています。曲率半径はその球の半径に該当します。曲率半径が小さいほど錠剤の両面は丸みを帯び、大きいほど平らになります。
〔注②〕 せん断応力
錠剤を樹脂製のシートに押さえつけた状態でシートを移動させた際に発生する滑り摩擦力。せん断応力は、錠剤を飲み込む際の喉における抵抗や違和感の目安となると考えました。
〔注③〕 イージータブ®
『イージータブ®』とは東洋新薬が開発した、水によって表面がゼリー状になる錠剤です。錠剤を飲み込むことが苦手な方をサポートします。
〔注④〕 VAS
Visual Analog Scale。官能評価において良く用いられる手法です。本研究においては、飲みにくさの程度を確認するために、左端が最も飲みやすく、右端が最も飲みにくい評価である横向きの直線に、飲みにくさの位置を記してもらい、左端からの距離を、その錠剤の飲みにくさ(VASスコア)として評価しました。
〔注⑤〕 官能評価
ヒトの感覚を用いて製品の品質(風味・飲み心地など)を確かめる評価です。本研究においては被験者に錠剤を飲んでもらい、VASによる飲みにくさの評価を行いました。